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園だより

2018/12/05

あなたのセンス・オブ・ワンダーを探して

2016年6月の園だよりをお伝えします。

梅雨に入るまでの初夏の時期は、一年で一番気持ちの良い季節です。緑はますます濃く、風は爽やかで蜜柑の花が香り、時折聞こえて来る鳥のさえずりを聞いていると、亡き父と共に過ごした夏の高原での日々が脳裏に浮かんできます。目を閉じればそこは思い出の高原なのです。その時の記憶が今の私の生活を生き生きと彩りのあるものにしてくれるのは、山歩きが好きだった父が私に授けてくれた「センス・オブ・ワンダー」なのだと思います。それは、「神秘さや不思議さに目を見はる感性」と訳されますが、子どもがセンス・オブ・ワンダーを育むためには「私たちが住んでいる世界のよろこび、感激、神秘などを子どもと一緒に再発見し、感動を分かち合ってくれる大人」がそばにいることが重要なのだといいます。

さて、『センス・オブ・ワンダー』、聞きなれない言葉かもしれません。これは、アメリカの海洋生物学者だったレイチェル・カーソンが亡くなる直前に残した著書のタイトルです。彼女は「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない、子ども時代は土壌を耕すときであり、感じる心という豊かな土壌があって知識や知恵が生み出されるのだ、という趣旨のことをこの本の中で述べています。

私は以前から、幼少期の自然体験と読書体験が人格を形成していく礎となる、と思っていたのですが、最近あちこちでいろいろな人が同じようなことを話しているのを目にして、「やはりそうか!」と快哉を叫びたい気持ちになりました。『センス・オブ・ワンダーを探して』という本は、生物学者の福岡伸一さんと阿川佐和子さんの対談集ですが、福岡さんは「子どものときのある種の体験が、それはとりたてて何でもないような日常の一瞬であったとしても、その人に決定的な影響を与え、その後、その人をずっと支え続けていく、そんな出来事があるように思える。」と言っています。また児童文学作家で翻訳家の石井桃子さんの「子どもたちよ。子ども時代をしっかりとたのしんでください。おとなになってから、老人になってから、あなたを支えてくれるのは、子ども時代の『あなた』です」という言葉が紹介されています。今の私を支えてくれているのは、子ども時代に浴びたいろいろなもののオーラだったというのです。なんだかグッと胸に迫ってきませんか。それは、私がもう子どもではなく、戻りたくても二度と子どもには戻れないことを知っているからであり、そして自分の子ども時代を豊かにしてくれた大人たちとの思い出が一瞬蘇るからかもしれません。それにひきかえ私は、目の前にいる子どもたちと、同じように豊かな体験、心動かす出来事を十分に分かち合えているだろうかと振り返り、せめて本の中からでも、心動かす何かを感じ取ってほしいと願うのです。

銀座の教文館書店から毎月、『ナルニア国だより』という月報が送られてきます。4月号のあるコーナーは、通訳の前沢明枝さんが『エルマーのぼうけん』の作者ルース・S・ガネットさんとの対談について講演した時のことを編集部の方がまとめたもので、その中で私が印象的に感じた部分をご紹介します。

ガネットさんはご自身の子ども時代を振り返って「子ども時代の大切さ」を前沢さんに伝えられました。人が小さい時に身をもって体験し、感じたことはその後もずっと残ります。子どもの頃の心を動かした体験(それは嬉しいことも、悲しいことも、全部含めてだと思います)がその人の核になり、その後の数十年の人生を支えるのだという言葉は、他の児童文学者にも共通するものです。子どもの頃に心を深く動かすような本に出会うことも、きっとその人の一生を支え、しなやかで強い心を育む根になるに違いありません。

ここでも、子ども時代の体験の重要性について語られているのです。自然に触れることでも良い、絵本を通してでも良い、子どもと共に心震わせて、子どもの中にセンス・オブ・ワンダーを育むことができるような、そういう大人として彼らの傍にありたいと思います。

園長 栗原弥生

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